佐伯とこんの
麦と比呂が部活でけんかして、色々な予定が流れてしまいそうだ。
『真夏の鍋奉行の会』とか、『暑中水泳』とか
花火とか、比呂の退院祝いとか、そういうのが全部ぶっ飛んでしまうかもしれない。
相談したくても小沢ちんは、部活の合宿で長野に行ってるし
浅井と俺という、笑うか泣くかしか能のないやつには、この一件を収める力がない。
ということで、宿直らしい岸先生が学校にいたので相談をした。
喧嘩のいきさつとか、どうすれば仲直りさせられるかとか。
そしたら岸先生は笑って、 『いいじゃん。放っておけば。』 という。
『だって・・あの2人が喧嘩してると、なんかつまんないし・・。』
思わず本音が飛び出した俺にむかって、岸先生が言うんだ。
『見守ることも大事だよ。』
先生は、宿直室の冷蔵庫にあったコーラをだしてくれた。
『佐伯も紺野も、似たもの同士じゃん。 なんつーんだろうなー・・・。 みんなに夢もたれちゃってさ。』
『ゆめ?』
『そう。あいつらに任せとけば大丈夫みたいな・・そんな夢。』
『・・・・。』
『佐伯なんかは神経質なとこあるじゃん。 とにかく穏便に穏便にって、みんなのために走り回るタイプだろ?』
『・・・ああ・・。』
『そうかも・・。』
『で、紺野は紺野で、てんでガキでさ・・ あいつは本当に子供じゃん。』
『・・・・。』
『まあ紺野は大人っぽいとこあるし、我慢強い子だけど、いってることは本当に子供だろ?』
『・・・・。』
岸先生は窓を開けて、タバコを吸う。この不良教師。
『紺野はいつでも佐伯に頼っててさ、何かといえば佐伯じゃん。
それがここに来て紺野がさ、入院したり、女となんかあったりさ、 一人で色々問題起こしたんだろ?』
『・・・・。』
『佐伯からしたら面白くなかったと思うよ。 自分を頼ってた紺野が、いきなり何も言わず自立しちゃって。』
『・・ああ・・なんかわかるかも・・。』
『・・・。』
『バスケのほうの期待も大きいしさ・・色々そういうのが混じっちゃって 紺野にあたっちゃったんじゃないかな。』
『・・・・でもそれじゃ紺野がかわいそう・・』
『・・憂さ晴らし・・みたいな?』
岸先生は笑う。
『憂さ晴らしじゃないよ。佐伯はいつも受け止めるばっかで、誰かに頼ったりしなかったんだ。
でも、むしゃくしゃして、あたりたくて、だから紺野にあたったんだ。』
『・・・どういう意味ですか?』
『・・どんなに佐伯がイラついたって、幸村や浅井には喧嘩なんかふっかけないよ。
想像つくか?お前らに、佐伯が八つ当たりするところ。』
『『できない。』』
『紺野に甘えたんだよ。佐伯は。ただ、タイミング悪く紺野も虫の居所が悪かったんだね。
まあ、もともと喧嘩っぱやいやつだけど・・でもきっとさ・・ 紺野は紺野で、そういう風に、
悩みも相談しないでいきなり喧嘩をふっかけてきた佐伯の態度が気に入らなかったんだと思うなあ。』
岸先生は窓の外に、煙を吐いて、こう言い切った。
『大丈夫だよ。俺が今まで見てきた限り 、相手のことを思うあまりの喧嘩をしてるようなやつが
それっきり仲たがいして、一生口きかないなんてことになったためしないから。』
・・・俺は、岸先生の言いたいことが、あまりわからなかったけど
浅井はしっかりわかったみたくて、妙に安心したらしく、ニコニコ笑ってた。
保健室に行ったら、2人して、すやすや平和な顔して眠ってた。
手の届くところにあるものでも投げあったんだろう。 ティッシュ箱や、枕が床に転がってて・・。
『小沢が来るまでに仲直りできたらいいね。』
ティッシュ箱とか拾い上げながら、浅井が俺を見て笑って言う。
『うん。そうだね。』
俺はそう答えて、比呂の頬を少しだけ撫でた。
2時間ほどしたら雨宮先生が保健室に戻ってきた。
『ん。』といって、なんか差し出すから、袋の中を見たら弁当だった。
『どうせ腹へって、イラついてたんだろ。特に黒。』
『なんで?』
『あんなあざができるほど、腹殴られて、ゲロ吐かないなんておかしいじゃんか。』
俺は紺野の布団を引き剥がし、服をまくって腹を見た。 すげえ・・。思わず目を背ける。
『すげえ・・これ大丈夫なのかな・・・。』
浅井の表情も一気に曇った。。
『一応医者にみてもらったんだけどな、大丈夫だった。』
といって雨宮先生が、弁当をひろげた。
『医者って誰に?』
とおれがいうと、先生が小指を立てて、にやりとした。
『えーー!!奥さん医者なの!』
思わず叫んだ俺たちの声にびっくりして、麦と比呂が飛びおきた。
そして2人でめがあうと、『ふんっ』っと露骨に、顔を背けた。
ガキ・・・・。
『どうだ紺野、痛くないか?』
『全然痛くないです(低音)』
『佐伯は大丈夫か?』
『こんなの全然ききません。』
浅井がそれを聞いて、大声で笑った。
雨宮先生の買ってきた弁当には、しっかりにんじんとブロッコリーが入ってる。
『・・残すなよ・・。』
『お前こそにんじん残すなよ・・。』
そんなふうに、いがみあってるあたり、もう大丈夫そうだ。
すごいなー・・。なんか・・。男の友情って感じだな。
でも、弁当食って保健室出るとき、ドアの前で立ち止まった麦に
紺野が『ちんたらしてんじゃねえよ。』と蹴りを入れて、喧嘩再勃発。
こんにょ・・・・・。
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