2006/8/19 (Sat.) 13:45:04
部活があった。昨夜、比呂と仲直りできなかった俺。
みんなの前で派手に喧嘩した手前、どんな顔して体育館に入ったらいいかわかんなかった。
今日さえ堪えたら明日は部活は休みだし、来週は夏休み最後の週だから、
部活はなくて、後半選抜の試合があるだけだ。
比呂と顔合わせないといけないのは、とりあえず今日だけってことで、
部活休むのも情けないんで、頑張っていくことに決めた。
駐輪場に自転車をとめて、体育館に行くと幸村がいた。
『麦ー、おはよー。』とか言って笑う。そして俺のそばに近づいてきた。
『怪我、大丈夫?まだ顔、腫れてるね。』
そんな風にいうから
『大丈夫だよ。』と返事だけして、肩を叩いて通り過ぎた。
・・・ピンクか。いいよな・・あいつは気楽で。
紺野に大事にされてるし・・。マジうらやましいよ。本気で。
部室に入ると浅井がいた。『よお。』といわれたから『よお。』といった。
俺がジャージに着替えると、『話がある。』といい俺の腕を掴む。
俺は浅井にいわれるままに、体育館裏についていった。
『なんだよ、話って。』
『なんだよじゃねえよ。昨日電話にもでないで、なにしてたんだよ。』
『・・・・。』
『紺野と仲直りしたの?』
『・・なんで仲直りしなきゃいけねえんだよ。』
『だってお前が悪いんだろ。きのうのあれは、お前が悪い。』
『なんで俺ばっか悪いんだよ。一番悪いのはあいつじゃねえか。』
浅井が黙って俺を見ている。思わず目をそらす。
『・・紺野が・・あんまりに鈍感だから、腹が立ったんだ。』
正直、俺には色々な言い分があった。
家のことでイラついてたとか、選抜チームの事で、胃が痛かったとか
だけど昨日、比呂に喧嘩ふっかけたのは、結局自分のこの思いが、全然比呂に伝わらないからで
浅井は事情を知ってるから、だから本音でそれを打ち明けた。
浅井が、目を閉じてため息をつく。
『それが、なんで紺野のせいになるんだよ・・・・。』
『・・だって・・・俺、あんだけ紺野に、決定的なこといってるんだよ。
好きだとか、付き合えよとか。でもあいつはそういうの笑ってかわして、
全然気持ち受け取ろうとしねえしそれにっ・・』
浅井は俺の言葉を手で制した。俺は黙る。
『あのね、麦。紺野はさ、お前に恋愛感情をもたれてるとは思ってないんだよ。
実際俺、お前がさ、紺野とユッキーがいるほうを見ながら
「あいつが好き」みたいなことをいったときに、紺野対象だとはおもわなかった。
迷わずユッキー狙いだと思ったんだよ。』
『・・は?・・・どういう意味?』俺には浅井の言ってる意味がわからない。
『だからー。普段のお前と紺野ちゃんのやり取り見てるだろ?そういうのを客観的にみてた俺らには、
お前が紺野ちゃんを好きだなんて思えなかったってこと。』
『・・・・。』
『モロ男な紺野ちゃんを好きになるなんて想像つかなかったんだよ。
ユッキーは、ちょっとかわいいから、あいつに恋ならあるかなあーと思ったけど。』
『・・・・。』
『紺野ちゃんは、お前の気持ちになんか、なんも気がついてない。
でもそれは、鈍感とかなんじゃないし、ましてや悪意のあるものではない。』
『・・・・。』
『なのにお前はいきなり紺野ちゃんを蹴飛ばして、文句いったんだ。
俺は麦の事大好きだけど、今回ばっかは100パーお前が悪いと思うよ。』
普段ヘラヘラしている浅井に、こうも的確に図星つかれて、俺はもう何も言えなかった。
だからって・・もうおそいよ。あやまるなんて・・絶対無理だ。
体育館に戻ると、ちょうど紺野がきたとこだった。目が合ったから、そっぽを向いた。
そしたら紺野が俺のほうに向かって歩いてくる。
『麦。』といわれたから、俺は紺野の脇を通り過ぎようとした。
そしたら紺野が俺の胸倉をつかんで『おい。』と俺を呼び止める。
俺は比呂のことを睨んだ。比呂は俺の顔をじっと見ると、ボソッと一言だけ言った。
『昨夜は死ねとかいってごめん。』
そういうと、俺から手を離して、体育館の入り口の方に出ていってしまう。
俺はしばらくぼんやりしてたが、紺野のあとを追って走った。
体育館脇の水道に紺野がいて、そのそばに幸村が立っていた。
幸村が俺の姿に気づき、気を利かせて先に体育館に入っていってくれた。
『比呂。』
俺は呼ぶ。紺野は無言で俺を見た。
『昨日は悪かった・・。俺、むしゃくしゃしてて。』
頭で考える前に、口が勝手に比呂に謝った。
紺野は、ちょっとだけ考えたようなそぶりのあとに、俺を見ていった
『いいよ別に。昨日は俺も、機嫌悪かったんだ。朝、テレビでやなもんみたから。俺こそ殴って悪かった。』
そういって、俺の隣を通り過ぎようとしたかにみえた。
でも比呂は通り過ぎなかった。
俺の横にくると、俺の顔を見て、『入ろうぜ。』と声をかけてくれたのだ。
俺は、黙って頷くと、比呂と一緒に体育館に入った。
そしたら、一年部員がみんなで、ニヤニヤしながら俺らを見ていた。浅井が腕組みしながら笑ってる。
幸村が嬉しそうに駆け寄ってきて、でも、かける言葉が見つからないのか、あわあわしてるから、なんか笑えた。
部活の間、紺野はいつもより、少しだけ無口だった気がする。
でも部活後に俺が、水道で顔を洗っていたら、俺のケツをバシッと叩き、
『宿題終わった?』と話しかけたきたのだった。
仲直りできたのは嬉しいが、実のところ俺は複雑だった。
こんなに大きな喧嘩をしたのに、環境は何一つ変わらなかった。
