2007/2/6 (Tue.) 00:20:34

今日はバイトだった。

部活でレギュラーに選ばれて、練習メニュ−がめっちゃ増えて、
部活後にバイトに入ると、やっぱちょっとだけ体がしんどい。
最近、バイトあがりの時間帯に、幸村がメールを入れてくれる。
それを見て、帰る元気をもらうのが、俺のここの所の日課。

バイトが終わって、スタッフルームに行く途中の階段で、
携帯の電源を入れたら、メールが一通入ってた。
差出人は幸村で、それ見ただけで俺、嬉しくて笑う。
だけど今日もらったメールは、なんかちょっと変だった。

<覚悟は出来てるから。>

・・・は?何の?今日一日を振り返っても、特に思い当たる節がない。
だから俺は、<覚悟って何?>って返信。
上着着て、マフラーして、階段を下りて店を出たら、幸村から返事がきた。

<気を使われても、もじめなだけだから。>

・・・・・・もじめとは・・・?


自転車の鍵を開けたあと、色々考えて俺は、もじめ→みじめ
じゃないかという事に気がつき、それを踏まえた上で、返信をした。

<みじめって何?なんかあったの?>

送信して、自転車にまたがる。今夜も超絶寒い。
でも、頑張って働かなきゃ。秋には俺もお兄ちゃんだし。

俺って金銭感覚ないんだ。値段とかちゃんと見ないで買ったりして。
だからちゃんと働かないと、大変なことになっちゃうんだ。
一人バブル崩壊状態になっちゃうからさー、ちゃんとしないとなって思う。

やりくり上手のお嫁さんを、早く見つけたいところだけど
幸村が、これまた最強の金銭感覚ゼロ人間なんだよね。
ゲーセンでバイト代全部つかってたようなやつだもんなあ・・。
しっかりしてそうな顔してるのにフェイントすぎる。

そんなこと考えてたら、幸村からまたメールが来た。

<同情で付き合ってもらっても、みじめだっていってるの。ばか。>

なにそれ。

しょうがないから、こんな時間だけど、幸村の家に立ち寄ってみた。
ちょうどバイトのシフトに変更あったから、勤務表も預かってきたとこだし。

ピンポンならしたら、幸村のお母さんが、すぐに出てくれた。
『夜分にすみません』っていったら、『いいのよそんな!』って笑ってくれた。
『あがって』って言われたけど、時間的にあれだから、幸村を玄関先に呼んでもらうことにした。

おばちゃんに呼ばれて、だるそうに階段を下りてきた幸村は
俺の顔を見たとたんに、急に立ち振る舞いがかわいくなって、
俺のときめきはーとは、爆発寸前。わが恋人ながら、ほんとかわいい。
おばちゃんは、幸村がきたら、居間の方にひっこんでしまった。

『どうしたの?比呂!』
『ううん。なんもしないけど、はい、シフト表』
『え?』
『変更あるからって、預かってきた。』
『あ・・ありがとう・・。わざわざ?』
『うん。・・メールのことも気になって。』
『・・・・。』
『時間遅いから、とりあえず帰る。もう寝るの?お前。』
『・・・・。』
『じゃあ、明日学校で話しよう。』
『・・・・。』
『駄目?』
『・・駄目じゃない・・・』
幸村は、真っ赤な顔しながら、むくれてる。

かわいいなあ。

何を誤解してるのかわからないけど、ほんとかわいいなあって思う。

『じゃあ明日ね。夜遅くに悪かった。お母さんによろしく。』
俺はそういって、玄関をでる。
幸村が慌てて、玄関出てきて、俺のひじをぐっと掴んだ。

また涙目だ。なーにー?もー。
『どうしたんだよー。なーに泣いてるの?』
俺は幸村の顔を覗き込んだ。
そしたら幸村が俺のほうを見て『嫌わないでね。』っていうんだ。

もう何回、これ言われたんだろう。
嫌うわけないよって、何度言っても、すぐにこいつは、また疑う。
俺はいいんだよ、別に。幸村が俺に嫌われたくないっていうならね。
俺は嫌いになんかならないし、俺自身にとってはなんも問題ない。

ただ幸村がさ、苦しんでるんだったらヤだよね。何の問題も起きてないのに。
・・・・・幸村は俺とのことに集中しすぎなところがあって、
そればっか考えてるから、俺の気持ちを見失っちゃうのかなあ。

それはそれでちょっと、せつないものがあるけども。

『嫌わないよ。』
『・・・。』
『嫌うもなにも、俺、お前が好きだもん。』
『ほんと?』
『ほんとだよ。じゃなきゃ、いちいち顔なんか見にこないよ。』
『え?・・顔みたいと思ってくれたの?』
『・・・あたり前じゃん。』
『だって・・シフト表あるから仕方なくかと。』

あーあ・・・この人のネガティブさが泣ける。
お前のそういう発言に、俺はいちいち軽く傷ついてんだけど。

『そんなの学校で渡せるじゃん。わかるだろ?』
『・・・・』
『あんなメール来たから、心配で来たの。』
『・・・・。』
『・・・・。』
『・・・。』
『顔も・・・見たかったし・・・。』
『・・・・ほんと?』
『そうだよ。じゃなきゃこんな時間に寄らないよ。』
『・・・なんで顔・・見たいって思ったの?』

でたよこの誘導尋問。てれてれしながら俺を見る幸村。
・・・まあ・・俺も嫌な気分はしないけど。

『好きだから見たいの。』
『・・・ほんと?』
『もう何度も言ってるじゃん、それ。』
『えー・・。だけどー・・。』
『そんなにすぐに忘れちゃうなら、メモれ。部屋行ったらすぐ。』
『・・えへへ。』
『・・じゃあ・・俺いくよ。』
『うん・・。ありがとう。』
『おやすみ。またあし・・・』

また明日って言おうと思ったら、幸村が俺の袖口を掴んで
『ちゅして。』
とか言ってきた。

お嫁さんのご実家の玄関前で、ちゅうできる16歳なんかいるもんか。
・・・でもした。すげえビビリながらだけど。
してみたらやっぱ、幸村かわいくて、疲れが一気に吹っ飛んだよ。

幸村の家をあとにして、ちゃりでちんたらと帰っていったら、
途中でおじちゃんの車に抜かされた。俺は急いで家路に急ぐ。

玄関についたとき、おじちゃんがちょうど車から降りたとこで
俺の顔を見たら笑ってくれた。『おかえり。』って言ってもらえた。

超てれる。

前まで俺、おじちゃんとかと帰り時間が合わないように、必死に色々やってきたんだ。
帰宅時間重なりそうだったら、町内自転車で走り回ったりして。
でもなんか、おばちゃんに赤ちゃんができてからというもの、
なんとなく・・おじちゃんと・・話をしてみたい気になってきたんだ。

俺の誕生は周りの大人を、不幸にさせてしまったけど
おばちゃんの腹のあかちゃんは、望まれて出来た子だったから
やっぱみんなを幸せにする。命ってすごいと思う。

俺は偽者の子供だけど、いつかおじちゃんやおばちゃんに、
親孝行みたいなことを出来たらいいなって思う。


自分の部屋に入って、とりあえずベッドにねころんだ。
そしたら幸村からメールが来て
<比呂好き。>
ってそれだけ入ってた。

俺はそれをぼんやり見たあと、目を閉じて考える。

なんて返事しようかな。
好きっていわれて嬉しかったから俺も、
『好き』って一言打って送ろうかな。
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