
2007/2/6 (Tue.) 22:52:49
朝、比呂が教室に入ってきて、席に荷物置くとすぐに俺のとこに来た。
『おはよ。ちょっと。』って、俺を廊下に連れ出す。
HRまで20分くらい。俺は黙ってついて行く。
比呂は備品室前で振り返ると、『ねえ、昨日の話って何?』って言った。
俺は単刀直入に『・・好きな人いるでしょ?』と言う。
比呂は、予想もしていなかったのか、きょとんとした顔をしている。
昨日の夜、比呂が俺の家に立ち寄ってくれて、うれしかったんだけど・・
でも、そのあと思い返したら、やっぱさーなんかさー・・結局、不安になっちゃったんだ。
そんで行き着いた答えが、やっぱ比呂は俺を好きじゃないんじゃないかって事。
比呂は俺を見て『俺が好きなのはお前だけど』といった。胸の奥が、どきんとする。
・・・・そんなの・・・嘘じゃん・・・。俺、本当はわかってるんだ。
どうせ比呂は・・・・同情で・・・断れないから俺と付き合ってくれてるんだって・・。
『俺のこと好きって・・・・俺だけじゃないじゃん。』
俺は言った。比呂が、は?って顔をする。
『俺だけを好きなわけじゃねえじゃん。』
俺がダメ押しみたいにそう言ったら、比呂がむっとした顔をした。
やばいって思った。でも、沈黙の時間を作ったら、おしまいだ・・とも思った。
捨てられるのは目に見えてるし、だから俺は勢いで話す。
『比呂はみんなに優しいから・・・だから・・そういう感覚で・・・俺と・・。』
そこまで俺が言ったら、比呂が俺を呆れたような顔で見ていった。
『もういいよ。』
『・・・・。』
『結局またそういう話なのかよ。』
『・・・・そうだよ・・。』
『昨夜もそんな感じの話をした気がするんだけど。』
『・・・そうだよ・・。そんで俺、気がついたんだ。』
『なにを。』
比呂の言葉が冷たい。・・・怒ってるのは、顔を見なくてもわかる。
『だから・・、比呂は・・・もともと性格がよくて・・誰にでも優しくできるから・・
その流れで俺とも付き合ってくれて・・』
『・・・・。』
『保育士のことを好きになったのに、俺を捨てられないんでしょ。』
ハッ・・とした。言うつもりのないことまで言ってしまった。
比呂のことが怖くって・・だから、なんか勢いで・・・・。
比呂は、大きな溜息をついた。がっかりして溜息ついたとか、そういうんじゃなくて・・
怒りを自分でおさめるために、息を大きく吐いた感じの・・・。
比呂の顔を見たら、俺のほうは見ていなかった。
笑ってもいなかったし・・・こんな比呂の顔は・・見たことがない・・。
『俺がお前を捨てるの?』言いながら比呂が俺の顔を見た。
『・・・・。』俺は何も言えない。
『本気でそれを言ってんの?』
『・・・。』
もう一度比呂は、大きくため息をついた。俺は萎縮してしまって、体が動かない。
・・いつもと全然違う展開で、どうしていいのかわからないんだ。
比呂が聞き流してくれない・・・。
『あのさあ・・。』比呂が俺から目線を外して話し始める。
『保育士の人を好きになったとか、流れで付き合ってるだとか・・・
なんでそんなふうに決め付けた風に言うわけ?俺、お前にそんなこと言った?』
言われてはいない・・・。でも・・そんな気がしたから・・だから・・。
『言ってないよなあ。・・言うわけねえじゃん。だってそんなのまるっきり、ないことだし・・。』
『・・でも・・。』
『でもなんだよ。』
『・・・・。』
『思ったこと言えばいいじゃん。言えよ。』
『・・・自信・・ないもん・・。俺。』
そしたら比呂がキれた。
『自信なんてあるわけねえだろっ。俺らまだ、一ヶ月じゃん。俺だってそんなもんねえよ。
浮気もないし、なんもねえのに、何でこんな話してんの?俺ら。』
『・・・・。』
『俺は別に、ヤキモチとか、嫌じゃ無いんだよ。もともと。
やかれりゃ嬉しいし、かわいいと思う。でもさっきのお前の言い方は本当に嫌だ。』
『・・・。』
『保育士って、豆まきのあれだろ?何でそんなのにまでヤキモチやいてんの?
俺、あの人らの話なんかしてないよ。』
俺は、目を閉じて思ったことを言う。
『言わないってことはっ・・・やましいことがあるからじゃねえのっ?
あんなにかわいい保育士がいて、お前が何も思わないわけねえもん。
比呂はもてるじゃん。すげえもてるじゃん。俺なんか最初から、恋人なんか無理なんだよ。』
話をしているうちに、興奮してしまって・・そんなことまで言ってしまった。
涙もでやしない・・・。手が震えてる。
『お前は・・・。』
比呂が、かすれたような声で静かに話し出す。
『幸村はさあ・・・俺とどうなりたくて、告ってくれたのか、わかんないけど・・
そこまでお前の中で、答えでてんなら、俺ら終わったほうが・・いいんじゃないの?』
『・・え・・。』
『俺はさ・・・お前と付き合い始めてから今まで、何の問題もなかったように思えんの。
ゴタゴタする理由とか・・全然思いつかねえの。』
『・・・・。』
『なのにお前は苦しんでるんじゃん。俺は一人で楽しかったんだ。
気づけなかったの。俺の何かがお前を苦しめてることに。』
『・・・比呂』
『保育士の人は・・かわいかったかもしれないけど・・必要無いからお前に話さなかった。
それは・・話題にするほどの印象が俺になかったからでさあ。』
『・・・・うそだ・・。』
『は?』
『そんなのありえない。』
すると比呂が俺を見た。
『・・お前がそういうんなら・・そうかもしれないね』
ズキっとした。頭から血の気が引くのがわかる。
比呂は、首を回しながら、肩に手を置いて、疲れたような顔で目を閉じた。
『なんか・・このまま話してても・・ただ繰り返すだけのような気がすんね。』
『・・え・・?』
『わかった。もういいよ。』
『・・・・。』
『戻ろうぜ。そろそろ時間だから。』
そういうと、比呂は俺より先に歩き始めた。
『話・・終わってない・・。』
俺は、比呂のあとを追って声をかける。比呂は、ははっと笑って俺を軽く突き飛ばした。
『まだなんか言われんの?俺。』
俺は立ち止まる。比呂は、俺を見ていった。
『もうやだよ。何も聞きたくない。』
廊下の向こうで、声がして、浅井と坂口が手を振っている。
比呂が手を振り帰し、俺のほうを見て『じゃあ・・みんな来たから。』って言った。
待って。なに?
俺ら・・・・終わり?
待って・・・。ちょっと待って・・。