『俺の体温は彼を温められたのだろうか。』

今日は終業式だった。

前に比呂がなんとなく『終業式の日、俺、浅井と一緒に学校行こうかな〜』ってぼそりといったのを、
麦や坂口が形にして、今日は学年のやつ殆んど全員で、浅井と一緒に学校まで自転車をこいだ。

浅井の家に迎えに行くのを、誰にしようかってのも考えて、出発地点から一緒に行くやつの中で、
一番身なりが一般的な比呂と小沢に決まったんだけど・・比呂は嫌がったんだよね。比呂はもうずっと、涙目なの。

それを坂口が説得してね、結局ちゃんと迎えに行ったんだけど、
気を張ってないと泣きそう・・とか言うから、小沢が肩を組んであげたんだって。

なんかね、いつも遅刻ギリギリのやつらが、時間通りにコンビニとか、電柱の影で待ってるの見たら、
俺までグっときちゃったよ。浅井は、すげえ泣いちゃってたけど。
夜も遊びたかったんだけど、あいつご両親の会社の人たちから
家族で送別会に誘われてたみたくて、夜は遊べなかった。

そしたら比呂が、俺に言うんだ。『俺んち今日、誰もいないから泊まって。』って。

『泊まれる?』じゃなくて、『泊まって。』だったんだよ・・・。
比呂がそんな風に言うなんて珍しいから、俺、黙って比呂の手を握ったよ。

部屋にいったら、カーテンが閉まってた。いつも比呂は、朝起きたら、カーテンをきっちり開ける子なのに。
それだけじゃない。部屋の壁際に、雑誌が何冊か散乱していた。たぶん壁に投げつけたんだな。
俺はそれらを無言で片付けようと、しゃがんで雑誌を手にしたら、比呂に後ろから抱きしめられて、

もう駄目。キスがかわいいんだもん。頬ずりと口づけを、なんどもなんども比呂がすんの。
甘えかな・・・。なんなのかな・・。もうね、一度、あの裸のぬくもり知っちゃうと、
駄目なんだよね、布一枚すら無理なのね。俺ら互いに脱がせあって、床の上でやっちゃった。

射精をしたら、すこしだけなんか、冷静になったのかなあ・・。
比呂がベッドから引き摺り下ろした布団をかけてくれて、
俺をぎゅうっと抱きしめてくれたんだ。

いつも2人でいる時は、わりとおとなしい比呂だけど、
今日はやっぱ特別に無口だ。守ってあげたい・・・そう思った。
俺は比呂の髪を撫でて、今朝の浅井との登校について話をした。
『感動したよー。 』『いい思い出作りになったね。』って俺が言っても
比呂は、黙って目を閉じるだけだった。
閉じた目からは、また涙が流れ落ちる。俺がその涙をそっと拭うと
比呂がね・・言うんだよ・・。

『あんなのやりたくなかった。』って。

『特別なことをするたびに、どんどん別れが近づく気がする。
だから、あんなのやりたくなかった。
朝、約束のギリギリ時間まで、部屋で電話を待ってたんだ。
「転勤なくなったよー」っていう、浅井の電話を待ってたんだ。
昨日も、一昨日も、その前も、毎日毎日、その電話を俺は待ってるんだけど、
全然かかってきやしない。結局終業式が終わっちゃったよ。』

俺は比呂の頬を両手で包んで、あいつの下唇をそっと吸った。
そしたら比呂が俺を見たから、今度は俺が比呂に言ったんだ。

『でもさ、比呂は偉かったよ。寂しいの我慢して、ちゃんといったんだもん。
浅井のために、頑張ったんでしょ。えらかったよ。』

すると比呂は首を横に振る。だから俺は黙って首をかしげる。
今度は比呂が俺にくちづけた。それで俺の肩にデコをくっつけて、言うんだ。

『えらいことなんかないよ。俺・・・結局自己中なんだ。
浅井のために頑張ったんじゃない。自分のために行ったんだ。
ああいうことすれば浅井がずっと、俺らのことを覚えていてくれるんじゃないかって、
・・・忘れないでいてくれるんじゃないかって・・そういう・・・下心って言うか・・・』

そこまで言うと、比呂は完全に黙ってしまった。
俺の体の中ではまだ、比呂が脈打つその感覚が甘く残っているというのに
比呂はすごく落ち込んでいて、それに対して、どう声をかけていいのかわからない。

俺は黙って比呂を抱きしめ続けた。そしたらそのうちにかわいらしい寝息がすうすう聞こえてくる。
頬を撫でても比呂は起きなかった。

・・・・・・・寝不足だったのかなあ。
そういえば比呂は最近なんか、顔色がよくなかった。
なんとかして、比呂をベッドに上げたら、今度は俺のほうが泣けてきた。

浅井、もうすぐいなくなっちゃう・・・。比呂がこんなに悲しがってる。
今朝の光景がよみがえってきて、俺は眠る比呂の背骨に、頬を預けて、ぐずぐずと泣いた。 


2007/03/20(火) 23:07:03
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