Date 2006 ・ 05 ・ 31

同性愛で何が悪い!

いきなり極端なこと言って申し訳ないのだけど、本気で俺はそう思った。

今日はクラブ活動の日で、比呂はこの日を待ちに待っていた。
先週植えつけたカビ菌の培養の経過観察ができるからだ。
俺は残念ながら、今週はちゃんと将棋クラブがあって、
観察クラブの教室にいけなくて、残念だなーと思っていたら
クラブ中に比呂から写メが届いた。

カ・・カビが生えてる!!←先週の作業をした者のみに、与えられる至福の瞬間。
そのメールに添えられた文章は
『ちゃんとカビがはえました。』だった。うっわ。超キュート!!
俺はそんなメールを見て、顔が勝手に笑うのを抑えきれなかった。

クラブが終わって、すぐに観察クラブのほうに行くと
比呂とクラブの先輩たちが、すげえニコニコ話をしていた。
『比呂』と俺が声をかけたら、比呂が俺においでおいでという。

俺が『失礼します。』といって教室に入っていくと、
地味な観察クラブの先輩が『ほらこれだよ。カビ。』といって
ちゃんとカビのはえたシャーレを見せてくれた。

うっわ。さっき比呂が写メってきたやつの、実物だー!
『幸村に見せてやろうって先輩が。』
どうやら俺のためにこのシャーレを、片付けずにいてくれたらしい。

すげえうれしかった。だからおれ、大きな声で
『実物見たかったんです。うれしい!!!ありがとうございます』とお礼を言った。
そしたら先輩たちがみんなで、照れたように笑ってくれた。

超嬉しい・・・。

そのあと俺らは部活に行く。俺様のご機嫌は最高マックスだ。
部室に入ると、浅井と麦が、何かごそごそと話をしていた。
『・・・うわ・・やらしい・・何?なんの話?』と比呂が話の輪にはいっていく。
二人の話していた内容は、どうやら同性愛のことらしい。
『ピカ女(光が丘女子高校)にさー、女同士で付き合ってる子がいるんだって。』
とかいう下世話な噂が広まってるそうだ。俺は、ふ〜んと、言いながら聞いてた。

そしたら比呂が『それがどうしたの?』と、不思議そうな顔をして言う。

『いや。さっき先輩がさ。AVの世界みてえだなとかいってたからさ。』
『そう。なんか、女の子同士って、どうなの?とかおもってよお。』
浅井と麦がそういった。

すると比呂が『・・・くだらなっ。』とあきれたような顔で言った。
そして、服を脱いでジャージに着替える。同性愛がくだらない・・?俺の気分は一気に降下した。

でも比呂はそんな意味で、『くだらない』といったんじゃなかった。

『相手すらいない俺達に、他人の恋愛に口出しする権利はない。』
『いや・・でもふつうにさ・・なんかさ・・』
『だよな・・。ぶっちゃけエッチとか、どんな風にしてんだろうとか思っちゃうじゃん。』
俺は思わず無口になる。比呂は心の底から軽蔑するような目で佐伯を見る。

『・・結局そこ?』
『なにを!大事なことだろ!』
怒った麦を制して、浅井が比呂にこう聞いた。

『そういや紺野ちゃんのバイト先の人、同性愛者なんだよね。』

比呂はメールがきたっぽい携帯画面を見ながらコクンと頷いた。
『・・普通に仲いいし・・普通だよ。ちゃんと普通に・・立派な愛。』
そこで先輩が入ってきたから、話はブツ切れのまま終わった。

帰り道。麦と浅井と俺と比呂で校門まで一緒にチャリをおしていき、門の前で解散。
俺は比呂と一緒の道を行く。チャリこぎながら俺は比呂に聞いた。

『ひろー。』
『・・あー?』かったるそうに返事する比呂。
『お前さー、男に告られたらどうする?』
『・・えー・・・。なにそれ。やだよそんなの。』
『・・・は?』
『男に告られるなんて、ヤダヤダ』

こいつ・・さっきと何気に意見が矛盾してないか?

『でもお前さっき、同性愛は立派な愛だっていってたじゃん・・。』
そしたら比呂は言うんだ。

『・・・付き合いたいと思った男に出会ってないからわかんないよ。』

『・・・どういう意味?』

俺は自転車を降りる。それを見た比呂も、自転車から降りてくれた。

『だから・・・今現時点で付き合ってる同性愛の人ってのは、そういう相手に出会ったからじゃん。
俺は同性相手にそういう感情を持ったことないから、それより先を考えられないってこと。』
『・・・。』
『お前だってそうじゃないの?出会ってからじゃん、そういうの考えるのって。』
『・・あ・・ああ。』
思わず嘘をつく。

でも俺は今日は強気モードなので、比呂に一言質問をした。

『でももしさ・・出会ったらどうする?』

比呂はきっぱりこういった。

『出会いたくない。・・・そんな・・・・・男とどうにかなるなんて無理。俺はヤダ。』

俺は思わず自転車ひっくり返してしまった。自分でもビックリするくらい、俺は動揺しまくってた。
比呂は自分の自転車を近くの壁にたてかけて俺の自転車を立て直してくれる。
そして、そのまま俺に向かって話をした。

『俺、好きな子は守ってあげたいって思うから・・・
強くありたいし、好きな人は絶対に大事にしたいし・・・。
男なんかほっといたって大丈夫じゃん。とりあえず体力的には強いと思うし。
男はやっぱ友達がいい・・・。で、彼女を大事にしていずれ結婚が理想だなー。』

俺の気持ちなど知らない比呂は、迷いなど無くそんな残酷なことを言う。
・・・男だけど・・俺は弱いよ・・・。体力だって全然ないし・・・。
聞かなきゃよかった。可能性を少しでも残したくて、深追いして、とどめ刺された。

・・・と思ったんだけど、比呂の話には続きがあったんだよ。


『・・んー・・・・でも・・万がイチ・・・ほんとまじで万がイチ・・・・
そういう男に出会っちゃったとしたら、それはやっぱ・・付き合うかもしれない。』

そして締めくくりにこういった。

『んで、その人を俺が死んでも守る・・・かもしれない・・・。・・・わからん。』


・・・まいったなーとおもった・・・。

比呂は女と遊びでヤったりしてるけど、恋愛願望はあるんだ・・・。
だったらなんで特定の彼女つくらないんだろう・・。

そんな会話のあと、俺らは自転車を押して、クラブのカビ菌の話をして帰った。
俺は比呂が笑顔でカビ菌の話をしているのをみながら、なんとなく・・・なんとなくなんだけど、
いつか自分が、この笑顔に守られる日が来る気がしてならなかった。友達ではなく、恋人として。


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