2006/7/3 (Mon.) 22:07:27
放課後、外掃除のときに、小さな木の陰で、ヨロヨロと歩いてる子猫をみつけた。
生まれて間もなさそうなその猫。多分捨て猫なんだと思う。
すぐ近くが先生たち用の駐車場で、このままじゃ絶対危ないって思って、
俺は、そおっと両手で抱き上げて、教室までにゃんこを連れて行くことにした。
そしたら途中の廊下で、実習室の掃除を終えた比呂が集中力ゼロパーセントで歩いてきて、
俺の持ってるにゃんこを見つけた瞬間、『なになに〜!』といって走り寄ってきた。
『ひろった。』『うっわー!ちいさい!かわいい!どこにいた?』
『先生らの駐車場のそばの植え込み。』『危な。』
『だから拾ってきたよ。』『へえ・・。みせてみせてー。』
比呂は子猫の体をそっと撫でてわらった。
『本当にかわいいんだけど!!』『そうだね。』
『ねえ、抱いてもいい?』『いいよ。はい。』
比呂に、そっと猫を手渡すと、比呂は子猫にそっと、頬ずりをしたんだ。
『かわいい。小さいのにちゃんと猫・・・かわいい。』
そういいながら、比呂が子猫のデコに自分のデコをくっつけて笑う。
『飼えたらよかったのにな・・・。』『・・もらってけば?』
『駄目だよ。俺んち、殆ど人がいねえから。』
・・・しまった・・。ころっと忘れてた。
比呂はもらわれっ子だったんだ・・・。
その後、通りかかった加茂橋先生が、娘さんが欲しがってたからといって
子猫を引き取ってくれることになった。
部活の休憩時間に、比呂はサニマに走って、キャットフードをいっぱい買って
加茂橋先生に渡していた。
比呂は、小さい動物が好きで、トカゲも好きで、虫も好きで・・・
猫もきっと飼いたかったと思う。捨て猫の気持ちを・・
捨て猫が拾ってもらったあとの心境を、一番わかっている奴だから。
部活が終わって帰る時、ちょうど加茂橋先生が車にのるとこで、
比呂は『も一回抱っこさせて』といって、その猫を愛しそうに抱いていた。
胸がつまりそうだった。
帰り道、俺は比呂に『おじさんに言って、猫、飼わせてもらえばいいじゃん』といった。
比呂は、『うーん・・・。』と言ったきり黙ってしまう。
『比呂が欲しいっていえば、飼わせてくれるよ、きっと。』
『・・・・。』
『おじちゃんらはさあ、比呂のこと、すげえ好きそうだしさ!』
からからと、自転車の車輪がまわる。
『・・好かれてるのかなあ・・俺はあの人らに。』
比呂がそんなことをいう。
『好きに決まってるさ。じゃなきゃ一緒にすまないよ』
『でも・・俺には、大人の責任をとって、しかたなく引き取ったようにしか思えない。』
『・・・・。』
世間知らずな俺のばか。
わかったようなことをいいやがって・・ほんと・・俺は馬鹿だ・・・
『嫌われてるって思うのは簡単だけど、好かれてるって思うのってむずかしいよな。』
『・・・。』
『けど、幸村がそういうんなら、好きになってもらえてるのかもしれないね。』
『・・・・。』
『また今度・・捨て猫でも拾ったら、ちゃんと相談してみるよ。』
『・・・。』
『・・あの猫は、お前に拾われてよかったね。』
家に帰って、ベッドに倒れこんだ。子猫の小さな体の感触が、手のひらにまだ残っていた。
そして、あの比呂の穏やかな笑顔と、愛しそうに目を閉じて、頬を摺り寄せたあの記憶が
目の奥に焼きついてはなれない。・・・・俺が比呂をだきしめてあげたい。
あいつの心には、流せずにいる涙がいっぱい
たまっていることを俺は知ってるから。
