Date 2006 ・ 08 ・ 04
比呂からの電話。
バイト上がりらしき時間に、比呂が俺に電話をくれた。
『もしもし。』と俺が出ると、『俺。』と比呂が受話器の向こうで言う。
車が通る音がするから、きっと外にいるんだ。
『帰り道?』と俺は聞く。『うん。』比呂が短く言う。
『小沢からさ、比呂が電話するって言ってたって聞いた・・。』
『あ。うん。そう。伝言頼んだ。』
『なに?』
『何ってお前・・そりゃこっちのせりふなんですけど。』
『・・・は?』
『なーんで小沢に俺の悩み事、言っちゃってんのー?』
『・・え・・だって・・口止めとかされなかったし・・それに友達だから・。』
『もー・・・。俺はお前にだから言ったのに。』
『え・・・。』
俺は次の言葉が出ない。すると比呂が話をはじめてくれた。
『まーあいいけど。小沢なら。でも、小沢に色々聞かれた事、あれってお前が言ってたことじゃねえの?』
『・・・うん・・・ごめん・・・。』
『直接俺に聞けばいいじゃん。なんで人づてになってるんだよ。』
『・・ごめ・・ん・・。』
『・・や、あやまんないでいいけど。』
『・・・。』
ちょっと間が空く。
『俺、怒ってるわけじゃないよ?ただ気になったから聞いてみただけ。』
『う・・ん・・。』
『あ、またおまえ泣く?そーだろ。泣く気だな?なら出てきなよ。時間大丈夫なら。』
『え・・、今どこ?』
『お前ら塾の前。』
俺は、親に『コンビニにいく』といって、家を飛び出した。
自転車爆走させて、いそいでいくと、比呂が警察と話をしていた。
なんで?!!
俺はあわてて『なになに?どうした?』といって比呂に近づいた。
そしてびっくり。その警察の人は前に俺が、比呂と喧嘩した時に俺を家まで連れて行ってくれた人だったのだ。
『ああ、本当に仲直りしたのか。』その人がにっこり笑う。
そして、比呂の肩をたたくと、『あんまり遅くなるんじゃないぞ?』といって、交番チャリに乗っていってしまった。
『どうしたの?』俺が聞くと、比呂がうう〜〜っと肩をすくめて
『危うく補導されるとこだった。前に一回捕まりかけといてよかった。』だって。
塾のガラスのドアの向こうに、女のポスターが貼ってあって、
あれって誰だったっけーって思いながら、じーっと中を覗いていたら、
おまわりさんに職質されそうになったらしい。もう・・・・。
サニマで飲み物を買って、塾前のベンチに2人で座った。
『な、俺怒ってねえだろ?』『うん・・・。』確かに顔見ると全然普通だ。
『でさ・・、かおりさんのことなんだけどさ・・。』
『ああ・・・。』
『もう何も口出ししないでくれる?』
『・・・。』
『ごめんね。』
そういうと、比呂はコーヒーをぐいっと飲んだ。ファンタじゃねえんだ・・・。
俺はオレンジジュースをぐびっと飲む。そして比呂に思い切って言った。
『好きなら付き合えばいいじゃん。なんでわざわざつらい思いして別れんの?』
・・・・・・・俺のあほ。
夕方小沢に言われたこととか、さっきの比呂の『口出しするな』を
全然聞いてなかったのかよ。なあ、俺っていう世間知らずの人。
だけど比呂は、別に動揺しなかった。
『それだけの理由が俺にはあるからだよ。』
俺は、それに納得ができない。
『どんな理由だっていうんだよ・・・。』しつこく聞いた。知りたかった。
でも比呂は、そんな俺をみても、何も怒らない。
だけど、比呂の返答は俺の心をぐっさりと傷つけたのだった。
『あの人にさえ言ってないのに、どうしてお前に言わなきゃなんねえんだよ。』
・・・ぐさっときた。・・・なんていうか・・・
比呂の心の中での位置関係と言うか・・俺がかおりさんよりずっと下のランクの人間だって言われた気がした。
もってたオレンジジュースを落としそうだった。だけど・・だめだ・・。冷静になれ、俺。
『確かにそうだけど・・でも・・俺はお前が心配で・・・だから・・・ききたいよ・・・。』
やばい。声が震えた。
比呂は、ちょっとだけ考え込んで、ふうっとため息をついていった。
『ごめん。誰にも言いたくない。』
・・・だよな・・・。
俺は比呂にとって、特別な友人と言うか・・親友だと思ってたけど
結局は・・・並のともだちっつか・・・何十人の中のひとりなんだよな。
『あのさー・・幸村さー・・・。』
俺が悲嘆にくれていると、比呂がぼんやり話をし始めた。
『・・・・なに?』
『変に誤解してると困るから言うけど、別にお前を信じないから言わないわけじゃねえんだよ・・・。
前にも言ったけどさ・・俺・・弱味をあんま人にみせたくなくてさ・・。』
『・・うん・・。』
『今、ほんと精一杯頑張って、こんな感じなんだよ・・。
だからもう誰にも彼女の事に、触れて欲しくないんだ。』
『・・・。』
『別れの理由もさ・・・相手がいることだしさ・・・これが結婚の理由とかだったら、
いっくらでも話できるけどさ、別れじゃん・・・。そういうのをさ・・やっぱ人には言えないよ。』
・・・そう・・だよ・・な。
聞いた俺が悪かったんだ。比呂・・ごめん・・なんか・・。
『だからもう俺、あの人のことは、話しないけど、
でもお前以外の誰にも相談したりしないしさ・・・だからそういうの、気にしないでよ。』
『・・うん。わかった。』
『でさ、そういえばお前、今日、どこいってきたの?親戚の人らと。』
比呂が話題を変えてくれて、俺はなんとか普通に比呂と会話をして、
おやすみといって別れた。
・・・なんか・・・・。
駄目だなー・・・ほんと俺は・・・。心の中のランクとか・・・発想がほんと、駄目駄目だよなー・・・。
家に着いて、なんかもやもやして、小沢に電話しようとしたけどやめた。
たまには一人で精一杯悩んで、自分の力で乗り越えよう。
他人任せにしてばっかだから、いつまでも消化不良でグズグズするんだ。
Post at 00:19