2006/8/14 (Mon.) 23:40:48

緑の佐伯氏にたのまれて、紺野ちゃんを偵察に行った。
まあ俺自身、紺野ちゃんのことが気になっていたんだけど。

玄関で呼び鈴を押して、おばさんに迎えられたら、家の中から線香のにおい。
ああ、紺野ちゃんのお父さんを迎えるための線香なんだな。

『あがってあがって。』といわれて、促されるままに階段を上がる。
部屋を開けたら紺野ちゃんが、音楽聴きながら眠っていた。
眠る紺野ちゃんのヘッドフォンに、そっと耳を寄せてみる。
お、この曲知ってる。広沢タダシの最近の曲だ。
それにしてもでかい音。これじゃ耳が聞こえなくなるよ・・。

俺はステレオのボリューム落として、つんつんと肩をつついた。すると紺野ちゃんが飛び起きた。

『・・・びっくりしたー・・・』
きょとんとした顔で俺を見るから、俺は紺野ちゃんの頭を撫でて、
『顔見に来た。 』と笑って言った。

おばさんが、菓子とかジュースをもってきてくれて、紺野ちゃんがそれを受け取ろうとして立ち上がろうとしたら
ヘッドフォンのコードが絡まって、首絞まりそうになってびびった。危なっかしい子。

『盆ちょうちんが見えたよ。おとうさんの?』
『そう。父さんが帰ってきてるんだ。』
『紺野ちゃんのお父さんって、いくつで亡くなったの?』
『29・・かな・・。たしか。』
『若かったんだねー。』
『うん。』

髪の色が赤い。黒のときよりも、ちょっと幼く見える。

『どんなひとだったの?』
『えー?そうだねー・・一生尊敬しちゃうってかんじ。』
『かっこよかったんだ。』
『うん。・・すごいかっこよかったよ。俺のパパ。』
『パパって呼んでたの?』
『ううん。おっくんパパって呼んでた』
『へえ。かわいいね。』
『そんなかわいい理由で呼んでたわけじゃないんだけどね。』
ジュースを飲んでごろんと寝転ぶ紺野ちゃん。なんだかすごく眠たそうだ。

『髪、染めたの?』
『ううん。こっちが地毛。』
『そうなの?じゃあいつも黒に染めてるの?』
『うん。この色のままだと父親そっくりでさ。だから。』
『そんなに似てるの?』
『写真見る?』
『見る。』

紺野ちゃんは、えー・・まじでー?とか小声でいいながら、嬉しそうに引き出しを開けて、数枚の写真を取り出した。

『はい。』
手渡された写真を見て、俺は思わず息を呑む。
すごい・・うそみたいに紺野ちゃんは、お父さんにそっくりだった。


『これ、紺野ちゃんじゃないの?』
『ううん。小さいほうが俺。』
『じゃあ・・お父さんなんだ・・こっち。』
『うん。似てるでしょー。背はおっ君のほうが若干高いんだけど。』
『え?お父さん身長いくつ?』
『186』
『でか。』
『でも、身長以上に心のでっかい人だったよ。』
『そうなんだー。お父さん、なにやってたの?』
『美容師。店長だったんだぜー!』
『まじで!かっくいい!』
『でしょっ!!!』

紺野ちゃんは、お父さんのことをそれはそれは幸せそうに話してくれる。
そういう紺野ちゃんの屈託のなさが、俺の心を深くえぐった。

ただの明るい男の子なんだとばっかり思ってたのに
彼のなかの、光のあたらない部分は、限りなく暗くそして冷たく
俺たちからは光の当たる場所しか見えないから
暗闇に落ちた紺野ちゃんには、手を差し伸べることすらできないんだよなあ・・。
無力だなー。俺ら。

プラモを作る紺野ちゃんの手伝いをしながら話をしつつ
俺は佐伯が紺野ちゃんに、恋愛感情を抱くに至った理由が、少しわかった気がした。

だけど佐伯のようなやつが紺野ちゃんと付き合ったりしたら、共倒れになっちゃう気がするんだ。

まあ、その前に紺野ちゃんが、男をそういうい目で見ないだろうけど。
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