2006/8/15 (Tue.) 23:09:45
バイト上がり。偶然麦に会った。
『よお。今から浅井と回転寿司行くんだけど、お前腹へってね?』
そんな風に誘ってもらえて、うれしいから『激ヘリ』といい笑った。
小沢も誘おうってことになって、連絡したらすぐ来てくれて、
みんなで商店街の端にある回転寿司屋にはいっていった。
結構混んでたんだけど、15分待ちだとか言うから、
『紺野さそってみよう。』と浅井が言い出して比呂に電話をかけた。
今日は送り火で、あいつ落ち込んでるんじゃねえかなってちょっと不安だったんだけど、
電話をかけた浅井は終始笑顔で、電話を切ったら『くるって。すぐに。』と言うから安心した。
比呂がくる前に席に案内される。俺の席の後ろに観葉植物が置いてあって、
それを挟んだ向こうの席に女が2人で飯食ってて、
回転寿司なのにすげえ酔っ払ってて、だらしねえなあって思った。
それぞれ最初はマグロで乾杯ってことで、2皿とって一貫ずつ食った。
うまいうまい言いながら食べてたら、小沢が『比呂!こっち!』っていって立ち上がった。
俺もその場に立ち上がる。そしたら比呂が手を振って笑った。
わあ・・。よかった。元気そうだ。俺は嬉しくて震えそう。
『髪、黒に戻したんだー。』浅井に言われて比呂は『うん。』という。
どういう意味?っておもった時、後ろのほうで『ひろ!』と言う声が聞こえた。
俺らサイド全員がそっちを見る。
さっきの酔っ払い女の一人が、席の上にひざ立ちになって紺野の事を見ていた。
そのうち女が泣き出した。ガキみたいにえんえん泣いて・・
そしたら比呂が、『ごめん、俺、あっちいくよ。』といって、
その女の方に行ってしまったんだ。
その女に向かって、『なにしてんの?』という比呂。そしたら女がビ−ビー泣きながら比呂にしがみつく。
一緒にいた女の人が、『ひろくん?』ときいてきて、比呂が黙って頷くと、
『かおり、会えてよかったね。』と、酔っ払い女に声をかけていた。
・・・かおり?
『ひろー、さみしかった。』『うん。』『はなしがあるのー。』『・・・いいよ。きくよ。』
そうかおりに言うと比呂は、向かいに座ってる女の人に、
『ここ、座っていいですか?』と断ってから、かおりの隣に座った。
『比呂。ごめんね。別れたのにどうしてもあいたかった。』『うん。』
『元気だったの?ひろはちゃんと元気だったの?』『うん。・・かおりさんは、酔っ払って大変だね。』
『うん。いいの!みずかに話聞いてもらってね、お酒が美味しかったの。』『ふふ。』
『ねえ、手、つなぎたい。つないで?』『うん。いいよ。』
・・まじか?ほんきで手をつないでんの?
手元まで見えなかったけど、かおりが比呂の肩に頭をのせて
『うれしい・・ゆめみたい。』というのが聞こえた。
その直後、すうすう寝息が聞こえる。かおりが寝てしまったらしい。
『かおりさん、結構飲んだんですか?』
『そうね・・。下戸が無理して飲んだから、すぐまわっちゃったの。』
『そうですか。』
『比呂くん、なにかたべる?』
『いえ。いいです。』
『・・・まさか、会っちゃうなんてね。今日は友達と?』
『・・ああ。はい。』
『・・・いいの?あっち行かないで。』
『ああ・・。はい。』
『・・・ねえ、比呂くん。』
『?』
『・・かおりに飽きたの?』
『・・・。』
『飽きたから捨てたの?』
『・・なんでですか?』
『かおり、君の事あきらめようとしてもなかなか無理みたいなの。』
『・・・。』
『お互い好きで別れるなんておかしいよ。そりゃ私達は君にとってはオバサンだけど、その分心に余裕があるの。』
『・・・・。』
『だからね、もうね、むしろ遊びでもいいから一緒にいてあげて欲しいの。
責任なんか求めていないの。性欲のはけ口としてでもかまわないの。この子はそれくらい君がすきなの。』
・・すげえ・・ひでえこといわれてる。比呂。
俺の向いに座っていた麦が、明らかにむっとした顔で、席を立とうとして浅井に止められた。
そして小沢は小沢で寿司をばんばんとって、『ほら食おうよ。』ってみんなに勧めた。
俺はそれどころじゃねえんだけど。メガネ女の話は続く。
『ねえ。飽きたの?本当は飽きたんでしょ?それとも、二股だった?どうでもよかったの?』
『・・・・・。』
『かおりの携帯の待ちうけ、君の寝顔なの。いまだにそうなの。君は携帯壊しておわったみたいけど、
かおりはそうはいかないの。社会人でしょ?そんな携帯ぶち壊すことなんてできないの。君とは世界の広さが違うの。』
『・・・・。』
『・・・仕事で頑張って頑張って頑張って、一生懸命君を忘れようとしてた。
でも、こんな風に酔っちゃうのよ。それくらい君が好きだったの。』
『・・・・。』
『・・・何も言い返さないのね。』
『・・・ああ、はい。』
比呂の声は冷静だった。
『じゃあ質問。』
『・・・はい。』
『遊びだったの?かおりとは。』
『・・・はい。』
『・・・飽きたの?かおりのこと。』
『はい。』
『・・・かおりに好かれるのは迷惑?』
『はい。』
俺等は箸を止めて、2人のやり取りを聞き入っていた。
すると一瞬話が止まり、メガネ女がこういったんだ。
『・・・いうわりには態度が全然ちがうのね。』
俺はゆっくり比呂のほうを見た。
比呂は酔っ払って比呂に抱きついて眠るかおりの背中を優しく擦ってあげていた。
比呂は、メガネ女に『ここまでどうやってきたんですか?』ときく。
おんなは『歩いて。』とこたえる。
『じゃあ、送ります。いきますか?』と比呂がいい、
『その子、寝たら起きないわよ。どうやって送ってくれるの。』と、メガネ女が言った。
『おぶっていきます。・・あ、金はらいます。』
『いいわよ。今日はもともと私がおごる約束だったの。君、何も食べられなかったわね。』
比呂は、ふふっとわらって、かおりをおぶった。
メガネ女が伝票を持って、俺らのテーブルの横を通り過ぎる。
目が真っ赤だった。泣いてたのかな。麦はメガネ女をすげえ顔で睨んでた。
そのあと比呂がかおりをおぶって、俺らのテーブルのとこに来て
『ごめん。ヤなとこ見せた。』という。『あほ。』と麦に文句言われてた。
比呂はかおりをおぶって、店のドアのほうに歩いていく。
その時かおりの顔がみえたんだけど、かおりは、すげえ悲しそうに泣いていた。
『・・・ないてたね。』『・・・起きてたね。あのひと。』小沢と浅井がそんなことをいう。
『卑怯だよ。ああいうのは。』麦がそういって、持ってた箸をべきっと割った。
悪いけど俺も、そう思った。
麦が『気を取り直して、カラオケでもいかねえ?』という。
『いいねー。』と小沢が言う。紺野も誘おうってことになって、麦が紺野にメールをしていた。
俺は、なんで比呂があのメガネ女の言い分を黙って聞いていたのか、さっぱりわからなかったんだ。
言い返せばよかったのに・・・。こっちのほうが悔しかったよ。