2006/8/25 (Fri.) 23:46:38

バスケで光が丘の選抜チームに選ばれて、昨日から大会が始まった。
一応初戦は勝てたけど、いいとこなしな俺。

そして今日。二戦目。スタメンから外された。
ベンチには入れるみたいなんだけど、やっぱりすげえ悔しいし、自分にむかついた。

実力出せなかった自分が悔しい。悔しくて、もうほんと嫌になって、たまらず紺野に電話した。
そしたら紺野は、今日も応援に来てくれてるみたいで選抜メンバーの集合まで時間があったから、
ガマンできず体育館の近くの公園に紺野を呼び出してしまった。

寝てる紺野に口づけをして、それ以来まともに会ってなくて、呼び出したあとに緊張をする。

あー・・・、なにやってんだ。俺は。こんなことひとつ、自力で乗り越えられねえのか。

ぼんやりと遠くを見ていたら、ちんたら駆け寄ってくる紺野がみえてきた。
なんかいつもと違うなって思ったら、めがねをかけていた。

『よお。』
『よお。』
『なんだよ、そのめがね。』
『浅井の。』
『なんで浅井のめがね、かけてるんだよ。』
『いいじゃん。ともだちだし。』
『(そういう問題じゃない)』
『・・どうした。なんかあったのかよ。』

比呂の顔みたら、それだけで、いつもの強気な俺復活。
紺野に気を使わせたくねえもんな。やっぱ、顔見ないとだめだ。
電話だけだと、妙に弱音とか吐きまくっちゃうから。

『別に用なんかねえよ。』
『はあ?』
『ちょっと呼び出してみただけだよ。』
『なにそれ。』

沈黙。

『今日、誰ときたの?』
『は?今日?・・いつもの人らとだよ。』
『いつもの人らってだれだよ。』
『めがねとピンクとチビと俺だよ。』
『・・・ったく暇人ぞろいだな。』

・・やべ。せっかくきてくれてんのに嫌味いっちゃったよ俺・・。
比呂は怒ると思ったけど、あははははと、気の抜けたような顔でわらった。

『確かに暇です。宿題終わってないですが、暇だから明日も来ます。』
『宿題・・って、何が終わってねえの?』
『読書感想文。』
・・・あほかこいつ。夏休みなんてもう終わりじゃん。
『こんな試合みにくる暇あったら、家に帰って宿題やれよ。』

どこまでも悪態をついてしまう。ダメだな、俺。ほんとあれだよ。好きな子いじめちゃうタイプなんだな。

比呂は、俺を蹴飛ばした。
『そういうお前は、感想文かいたのかよ。』
『書いたよ。東京タワーでな。』
『なにそれ。』
『リリーさんの本だよ。何度読み返して、何度号泣したか。』
『ふーん・・・。』
『読む本はきめたのかよ。』
『まだ決めてない。』
『まじかよ!あほか!おまえってやつ!』
『いいんだよ、いざとなったらあれでかくもん。ハウルの動く城。』
『それって映画じゃねえか。』

俺は比呂にデコピンくらわせてやった。いてえなあ・・と、デコを撫でながら、ムキになって比呂が俺にくってかかる。

『なんだよ!映画の方でかくんじゃねえよ!原作読んだからそっちでかくんだよ!てめえしらねえだろ!原作の内容。』
『・・・。』
『全然ちがうんだかんな!映画とは!だから俺はあえてそれでかくんだよ。ゲド戦記でもよかったけど、あっちは読んだ事ないから。』

・・・あ、おもいだした。
そういやこないだ坂口の家に行った時、なんかの本を読んでたんだ。
坂口は大のジブリ好き(ジャニーズと同じくらいすき)だから、きっとあの時読んでた本がハウルなんだな。
でも高校生が、このタイミングで、感想文の題材として、選ぶのか・・あの本・・。
っていうか、あんとき坂口が紺野の携帯いじって着メロ勝手に変えてたんだけど
それ、きづいてんのかな?紺野ボケ比呂。

紺野は、その後更に続ける。
『ハリーポッターも一瞬考えたけど厚すぎだろあれは・・・』

ばかばかしくて俺は笑った。けっして、ハウルやハリーがばかばかしいのではない。
プレッシャーや自己嫌悪で押しつぶされそうになって怖くて、
だから紺野を呼んだのに、普通の会話してるんだもんな・・・。
体の変なこわばりも、話してるうちにすっかり解けた。

『なあ紺野・・・。』俺は比呂に話しかける。
比呂はなんもいわないで、俺の方をじっとみる。
『スタメンはずれちゃったよ。ベンチには入れたけど。』

紺野は、俺から一瞬視線を外し、ため息ついたあと、俺をまた見た。

『・・・で?』

・・なんだよ・・こいつめ。そんなすくいようのないこと言うなよ。

比呂は俺をまた蹴っ飛ばしてきた。だから俺も、比呂をけり返した。
蹴り合いしながら比呂が、話し出す。

『光が丘って、バスケ、めっちゃ盛んなんだろ?俺、こっち越してきて一年くらいだから
そのへんよくわかんないんだけど、椿平の選抜チームは、一回戦で負けてったよ。』
『・・そういやおまえ、椿平で育ったんだよな。』
『うん。そう。俺は椿っこ。でも、今はお前がいるから、光が丘を応援するよ。』
『・・・・って、俺がいるからっていうよりは、お前がこっちに越してきたから、光が丘を応援するんだろ?』
『いや・・・俺・・椿平のほうが歴長いからなー・・・。』
『・・椿平にかえりたいの?』

・・・椿平は比呂の生まれ育った場所だ。
ど田舎だけど、すげえいいとこで、俺も親戚の家があるから、何度か行ったことがあるが
住む人も自然もなにもかも、本当に緩やかですばらしい。
のんびりやな比呂には、あっちのほうが似合うなって思ってた。
だからって、・・だからって、俺は嫌だ。光が丘より椿平が好きなんていわれたら・・・。
だって俺は、光が丘で生まれ育って、ここの代表として選抜でてるんだから。

『・・まあ・・帰りたいけど・・家ないし・・。。帰らないよ。』
『・・・・。』
『俺は椿平が大好きだけど、お前が光が丘の代表で頑張ってるから、光が丘もいいなと思うよ。』
『・・・・。』
『街も学校も好きだし。』
『・・・・。』
『だからさー、椿平のぶんも、かたきとってよ。』
『は?』
『椿平、お前らが次に当たるチームに負けたんだ。なんだっけ。高岡台だっけ。』
『ああ、うん。』
『勝ってよな。俺応援してるから。』

そういうと、最後に俺の二の腕に、おりゃあっとけりいれて、比呂は走っていってしまった。

・・・こまったやつだなあ・・・。

集合時間。チームで円陣を組む。スタメンには選ばれなかったが、交代で試合に出られる可能性はある。

椿平の敵討ちか・・。

あーあ。そうか。俺、視野狭くなってたや。思い切り個人気分でいた。
チームプレーなのに、自分にこもってたからスタメンから外されたんだ。

俺は光が丘の代表だ。代表チームの一員だ。
一人じゃねえし、気負わなきゃいいんだ。
チームの中で機能すりゃいいんだ。


・・・ったく。何年バスケやってんだっての。


二階席をみたら、紺野を含めた四人がピカ女の制服を着て俺にてをふっていた。
ミニスカートのしたに、ジャージのズボンはいてて、だせえやつら。なにやってんだ。

俺が手を振ったら、四人そろって
『麦く〜ん!がんばって〜!』って女みたいにいう。
声が低くて太いんだよ!会場中に笑われてしまった。

後数分で試合開始だ。負けたくない。椿平のぶんも、頑張らねえと。

よし。絶対負けない。今日は意地でも笑って帰ってやる。
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