2006/8/26 (Sat.) 22:57:01

選抜の試合が終わった。結果は準優勝だった。
最後の最後で強豪に負けたけど、個人的に俺は負けてなかった気がする。

今日は体育館に入ったら、眩しいイエロー軍団にすぐ気づく。
俺と目が合った比呂が、すぐ目をそらす。
よくみたら比呂の着ているTシャツに"麦"と思い切りかいてあった。

『麦・・ユー・・ラブ・・アイ・。』
ああ・・・。アイラブユーとか言いたいのか。
立ち位置考えろって話で、いつの間にあんなの作ったんだろう
あの汚ねえ字と絵は、おそらく紺野がかいたんだろうけど。

昨日はスタメン入りできなかったけど、後半交代で試合に出れて
納得いくプレーが出来たと思ったら、今日はスタメンに入れた。
試合開始直前、紺野らのほうをもう一度みたら、立ち位置調整したらしく、
麦アイラブユーになっていた。あほか。恥ずかしい。でも頑張るよ。

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試合が終わって、その場で選抜チームは解散。肩の荷が下りてほっとした。
体育館でたら、ばか4人組が俺を待っていた。
幸村が泣き笑いで、俺の方に手を振っていて浅井が『おつかれー』と駆け寄ってきて、
その向こうで紺野が泣いてるように見えた。隣に小沢。

ったく・・。欠かさず応援に来てくれて、ありがとね。

『さんきゅー、応援。決勝負けちゃってわるかった。』
俺は浅井に頭をはたかれながら、みんなに一応礼を言う。
すると幸村が『なにいってんのー。かっこよかったよ。』といって笑った。

小沢もにっこり笑ってくれて、『麦が一番上手だったよ』という。
そしたら紺野が顔を上げた。紺野は泣いてはいなかった。

徹夜明けで、眠くなったみたいだ。比呂は一睡もしないで、Tシャツつくってくれたらしい。
試合終わったら気が抜けて、眠くてふらふらしだしたそうだ。

あほだなあ・・。こんなダセえTシャツつくるのに徹夜なんかしやがって。
俺は紺野の足を蹴っ飛ばす。けり返してこない。本気で眠いんだな。こいつは。


『麦の健闘をたたえて、カラオケにでも行こう!』
『そうだよ、それいいよ。比呂も寝かさないといけないし。 』
『こないだ俺ら、四人でカラオケ行って、バンプうたいまくったんだぜ?』
『もー駄目だ俺。眠い・・・。はやくいこう。』

ったく、しょうがねえやつら。

俺は比呂を背負って、カラオケ屋への道を進む。
体育館から5分くらいのとこに、でかいカラオケやがあるんだ。
俺が背負ったら比呂は1秒で、ぐったりと眠ってしまった。
みんなでメロディーフラッグ歌いながら、カラオケ屋まで歩いたのだった。

背中にかかる比呂の重み。

男だからそれなりに重いけどズシっとくる1グラム1グラムがこいつの命の証なんだよな。

薬のみすぎて死かけたこいつを、今、背負って歩けることが嬉しい。
背中の比呂は温かく、俺の名の入ったTシャツを着ている。

あの時比呂がいなくなっていたら、俺たちは、ここで笑っていなかったし
こんなTシャツなんて作らないし俺は選抜も放棄していたよ。

大好きなやつの重さを背負う。生きてるこいつの重みだからいい。

比呂があのとき死んでたら・・・そんな悲しい思い出の重さには俺は堪えられないし
だからずっと、こいつが元気に、テキトーなこと言ってたらうれしいよ。

選抜選手という大役を、果たせた俺はすっかり緊張の糸が切れて
涙が出そうになったけど、比呂が起きたら困るから涙をぐっとこらえたんだ。

すやすやと眠る比呂のためだけに。


大事なんだよ。俺はお前が。
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